おさむ賞の
吉村昭『星への旅 (新潮文庫)』読了。またもや帰りの地下鉄の車内で。
1ヶ月ほど前だったか、上本町の近鉄百貨店内にある「近鉄ブックセンター」で、震災以降、著者の『三陸海岸大津波 (文春文庫)』が話題になったためか、改版で刷られたようだった。奥付には「平成二十三年六月五日三十四刷」とある。
昭和30年代後半から40年代にかけて『文学者』や『展望』などに発表された、本書に収められている短編には、どれも「死」、いやむしろ物質としての「死体」が付きまとっている。
文庫解説者の磯田光一は、これを作者の戦争(空襲)体験から来るものであり、その即物的な死とと対比する“幼児的ロマンティシズム”が作中で交錯するところが、この作品の興味深いところである、と書いている(ようにぼくに読める)。
何をもって“幼児的”なのか、たぶん、昭和48年に磯田が書いて示したかったものと、それから約40年後の今では、すっかりそれは変わっているように思う。“ロマンティシズム”の内容も。たぶん、当時は、少し侮蔑的な意味もあったのだろう。でも、この作品を今のぼくが読むと、少なくとも幼児的ではないし、その詩的な内容も、ロマンティシズムと名付けるほど、幻想的な印象は持たない。むしろ、根が“幼児的ロマンティシズム”に浸っているぼくからは、「大人びている」とも。
ぼくは、吉村昭の作品は、『仮釈放 (新潮文庫)』と、筆一本で生活するまでの苦労を書いたエッセイ『私の文学漂流 (ちくま文庫)』ぐらいしか読んだことはなく、ただ、いわゆる歴史物、あるいは事実に基づいたフィクションを、激しく強い筆致で物語る作家だと思っていたので、本作がとても意外だった。
表題作「星への旅」で、吉村昭は1966年の太宰治賞を受賞している*1。そう言われれば、そんな匂いのする作品。
数作ある作品のうち、ぼくも単純にページをめくる指が止められなかったのは、「星への旅」。ただ、どの作品も、ていねいにことばが選び、ていねいに綴られたことが伝わる。『私の文学漂流 (ちくま文庫)』を読んだからかな。

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*1:http://www.chikumashobo.co.jp/dazai/history/