15、6年前の馬鈴薯
何日か前の夜、いつもの通り、眠いなか、犬童一心監督の映画「グーグーだって猫である」の公開を機に編まれた大島弓子『大島弓子セレクション セブンストーリーズ』の分厚いページをめくったら、まず最初に収録されていたのは「ダイエット」だった(ちなみに、この本には他に「綿の国星(第1巻)」、「四月階段」、「バナナブレッドのプティング」、「金髪の草原」、「夢虫・未草」、「8月に生まれる子供」が収録されている)。
ぼくが、大島弓子をいちばん最初に読んだのも「ダイエット」だった(あすかコミックス版『つるばら つるばら』に収録されていたもの)。18か19才のころだったと思う。
なぜ「ダイエット」をいちばん最初に読んだ、ということを鮮明に覚えているかというと、当時、仲良くしていた女性が「これ、読んで」、「このなかの『福ちゃん』(主人公)って女の子、わたしに近い」と、本を貸してくれたからだった。
つまり、簡単に言ってしまえば、彼女は「摂食障害」だったわけなのだけど、15、6年前、まだ「不登校」が「登校拒否」と呼ばれていた時代、「摂食障害」ということばや症状は、まだ一般的ではなかったように思うし、さらにバカな18、19のぼくは、「ダイエット」を読んだところで、いったい何が彼女に「近い」のかがうまくわからなかった。
親が離婚→再婚しているのだろうか、とか、同性が好きなのだろうか(→つまり「だから、お前とは付き合えない」と言いたいのか)、とか、いろいろと考えたけど、その後、「読んだよ」と言って本を返すとき、彼女から「どう思った?」と言われ、答えに窮していると、彼女は自分の状態を自ら話してくれた。(「あー、そういうことだったのか」と、ぼくは、納得した)。「だから、ごめん、どこかにいっしょに出かけたりするのは全然行きたいんだけど、しばらくの間、いっしょに食事するのはできない。食べないか、ものすごい形相で食べまくるかしてしまい、そして、それをトイレに吐きに行きたくなるから」と彼女は言った。
ぼくは、そんなの全然構わなかったから、「うん、わかった」と言った。
それから、その彼女とは、5年ぐらい仲良くしていたけど、波はあったものの「摂食障害」はずいぶんと治まっていった。だんだんいっしょに食事できるようになり、いっしょに料理するようにもなった。でも、何回か、「ものすごい形相で食べまくる」彼女を見たときもあった。でっかい箱のアイスクリームを一気に食べたりもしてた。でも、ぼくはそんなの全然大丈夫だった。
ぼくは、そんな彼女のことを思い出しながら、「ダイエット」を読んだ。
もちろん、彼女に貸してもらってからも、自分で本を買って、何度も読み返していたけど、これまでとは違う感想を持った。
何日か前に読んだ感想は、詳しくはもう忘れてしまったけど、大島弓子の描く登場人物たちは、いろんなことがあっても、それをまず受け止める「勁(つよ)さ」を持っていること、そして、やはり「勁さ」が「やさしさ」を生むのだということを教えてくれる、みたいなことを思った。ヒーロー(英雄)ではない、凡人の「勁さ」。そして、辛苦からひととき救ってくれるユーモア。
主人公の「福ちゃん」にとって、「食べる」という行為は「いろんな昔のことを馬鈴薯【じゃがいも】ほりみたくゴロゴロ意識上に掘り起こ」し、「そしてそれらをまるで昨日の出来事のように新鮮な馬鈴薯【おもいで】にみがきあげ」「それで安心して(略)馬鈴薯【おもいで】をひとつひとつていねいに箱につめて意識の奥深くに埋める」という行為になっている。
作中では「馬鈴薯」に【きおく】というルビが振ってあったりもした。
ぼくにとって、この「ダイエット」という作品は、まさに「馬鈴薯【おもいで/きおく】」だと思う。
「福ちゃん」と違うのは、ぼくは結局、その彼女にフラれ、彼女はそれからすぐに官僚と結婚し(もうふたりの子を持つお母さんになっている)、そのときは、ものすごく、それこそ辛苦の日々だったけれど、今ではそれはとても「こうふく」な「馬鈴薯【おもいで/きおく】」だ。
家族以外の他人をあんなにも信じること/信じられること、裏切ること/裏切られることを実感させてくれ、それが「こうふく」な下地となって、今のぼくの人との関係づくり、そして、もっと言うなら、Cとのケツコンに結び付いているのだと思う。
Cといっしょに住み始める前にまた「ダイエット」を読めたこと、良かった。

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