僕はここにとどまるのだ
今日、年度末で人でごったがえす銀行で、順番を待っている際に、村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス〈下〉』をやっと読み終えた。
読み始めたのは、岩宮恵子『思春期をめぐる冒険―心理療法と村上春樹の世界』を読んだこと(結局、こっちは読みかけのまま)、そして、toriさんが「とり、本屋さんにゆく」で『ダンス・ダンス・ダンス』を読んだ感想として、toriさんが「『僕』は三十四才。5年後に、再読だな。」と書かれていて「あー、そうだったんだぁ、ぼくはもう『ダンス・ダンス・ダンス』の主人公と今年で同い年になってしまうんだ」と思ったこと、さらにtoriさんが「再読してみては」とコメントいただいたことをきっかけとした、2月下旬だったから、読み終えるのにずいぶん時間がかかってしまったけど、ほんとに、読んで良かった。
toriさん、ありがとう。

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15年ほど前、まだ10代のときに読んだときの感想は正直忘れてしまっているけれど、たぶん、全然違う感想をこのひと月少しずつ読みながら、そして、今日読み終えてみて感じたように思う。
それは、おそらく、15年前は、主人公が最終的に求める「現実だ、と僕は思った。僕はここにとどまるのだ」(文庫版 P.407〜本文ではこの文に傍点が打たれている)でいうところの「現実」なんてぼくにはおよそわかっていなかったし、わかっていたのはその「現実」は、唾棄すべきものであり敵であり、どうにかして組み込まれないようにこれから備えをしておかなければならない対象であるもの、つまり「オトナ社会」みたいなもので、もし当時のぼくがこの主人公の「僕はここにとどまるのだ」ということばに共感できていたとすれば、それまでの不登校で鬱のひきこもり状況から、なんとか這い上がってきた、それまでよりは少しベターな「現実」に「とどまる」ことをしていきたい、というぐらいだったと思う。
けれど、ぼくは、それから15年、今でも「オトナ社会」との付き合いについては「1歩進んで2歩下がる」的なスタンスでしかいれないにしても、ともかく、痛い目に遭ったり、妥協したり、突っぱねたり、丸め込まれたり、ぼくの場合は「文化的」でもなんでもない「雪かき」をしながら、ぼくの「現実」ととにかくやってきた。ときおり鬱に襲われながらも。そして、もうすぐこの主人公と同い年の34才を迎える。
一般的な34才がどんなふうなのかぼくにはちょっとわからないし(たぶん、ぼくよりはもっとしっかりしている人たちがたくさんいるのだとは思う)、『ダンス・ダンス・ダンス』が書かれた80年代の34才と、今の34才はたぶん違うにしても、ここで主人公が「現実だ、と僕は思った。僕はここにとどまるのだ」と傍点が打れるほどに痛感し、そして、ずっと「夢の中で僕のために泣いていた」キキという存在を探す旅に出るけれど、彼女は殺されていて(それも唯一と呼べるほどの友人・五反田君に)、最後に「僕」が「激しく求める」のは「現実」のユミヨシさんだったということ−−これは、村上春樹『ノルウェイの森』で最後に直子に電話をかける行為と似ている−−、その意味が、その重要さが、あと4カ月と2日で34才を迎えるぼくには、おそらく15年前のぼくよりかは、主人公の、そして村上春樹が伝えたかったことに近い感じで受けとめられたように思う。

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「現実だ、と僕は思った。僕はここにとどまるのだ」。このことばが、『ダンス・ダンス・ダンス』の骨子だと思う。少なくとも、ぼくは、さまざまな旅の末に主人公が「現実だ、と僕は思った。僕はここにとどまるのだ」と思えたことに、勇気を得た。主人公にユミヨシさんという存在がいて、とても良かったと思った。
夢は見るし、妄想も炸裂したいし、逃避だってする。でも「僕はここにとどまるのだ」。そのバランス、その折り合いをどうつけるか、そして、おそらく主人公にとってのユミヨシさんが、ぼくにとってのCであることを願う。彼女はとても健康的でとても現実的な人だから。
キリもいいこの年度末に、『ダンス・ダンス・ダンス』を読み終えたことが、なんだか象徴的なことに思えたりもして。

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この19年度、母の病気、母の看病と並行した仕事、母の退院、そしてひどい鬱、鬱と並行した仕事、それらの「現実」をなんとか生きてこれたこと。しんどかったけど。かなり、しんどかったけど。
明日から、新年度。

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