相手の必要な生き方
昨日の日手紙で少し触れた、昨夜(ゆうべ)読んだ羽海野チカ『3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)』は、今日も一日どこが良かったんだろうと仕事の合間に考えていたりした。
羽海野チカの描く線とか、瞳のうるうるした感じとかは、『ハチクロ』で知っているから、それでも改めてきれいだなとは思ったけれど、物語として惹かれた点といえば、『ハチクロ』も同様だけど、昨日も散々書いてしまったぼくの「思春期フェチ」とでも呼ぶべき、何かが欠落してしまった人たちがそれぞれを想いながら、欠落してしまったものを埋めようと、さらに、新しいステージに昇ろうともがく姿で、精神的にはまだずっぽりと思春期のなかにいる33才のオッサンのぼくが、彼らに抱く憧れや、彼らに託す未来とか、もう戻れないぼくの10代からのおよそ20年間みたいなものを、物語に入り込む方法でもって、タイムトラベルしてもう一度リプレイした感覚を味わっていられるところなのかもしれない。これまた昨日触れた岩宮恵子『思春期をめぐる冒険―心理療法と村上春樹の世界』で言うところの「思春期の追体験」というものかな。
でも、だからこそ、というのか、そうした登場人物を通して、作者が「迷い」「考え続ける旅」(作者のあとがきマンガの作者自身のことば)をしている姿が読めるのが、(勝手に)同志みたいに思えて勇気が出てくる。
ただ、主人公・桐山零が何もかも喪い、この世と結びつくたったひとつの手立てが「将棋」で、それを糧に17歳のプロ棋士として、まさに生活をやりくりしていくっていうのは、ぼくが将棋をまったく知らないから、なんとも言えないけれど、きっと将棋、あるいは棋士という仕事には、この世にいろんな人や生きる仕方があるなかで、羽海野チカが選んだ「凝縮された何か」であったのだと信じたい。例えば、それは、ぼくの好きな思考の仕方をする保坂和志が『羽生―「最善手」を見つけ出す思考法』という作品を選んだように(ぼくは、保坂さんの本のなかで、この作品だけ読めていない)。
将棋マンガ、といえば、ぼくが真っ先に思い出すのは、ちょうど、ぼくが「ビックコミックスピリッツ」にはまっていたときで、そのなかの連載作品だった能条純一『月下の棋士』だ。そして、将棋がわからないぼくでも読めるかもと、何度も挑戦したけれど、結局最後まで読めずに終わって、その点でいえば、この『3月のライオン』という作品は、将棋なんて全然わからなくても読める。先崎学八段が監修しているので、将棋がわかる人が読めばもっとおもしろいんだろうなと思うと悔しいけれど。ちなみに、単行本には「先崎学のライオン将棋コラム」も付いていて、それはきちんと初心者にも玄人にもおもしろく読める内容となっている。
そういえば、「このマンガを読め! 2008」で上位にランクインされていたのも、柴田ヨクサル『ハチワンダイバー』という将棋マンガだった。
将棋は、結局のところ、だれか相手の必要な生き方だけれど、でも、そこに至るまでには、ひとりで孤独に悶々と時を過ごさざるを得ないのだろうし、そこら辺が「凝縮された何か」たる所以なのかな、とは、ぼくの想像の域を出ない。

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