不幸の裏打ち

 仕事後、堤幸彦監督/中谷美紀阿部寛主演「自虐の詩」(DVD)を布施ラインシネマ北館で観る。22日で上映終了だと知ったので。
 観客はぼくを含めて4人(男3+女1。そういえば、先日ここで「ボーン・アルティメイタム」を観たときも4人だった)。近くて空いてて便利な映画館、どうか潰れないでおくれ。
 業田良家の同名原作(竹書房文庫版上に加え、映画化を機に「大判上」が発売されているよう)については、この場で何度かぼくにとっての「マイベストブック」だと述べているので省略するけれど、だからこそ映画を観るのには正直ちょっと勇気が必要だった。
 堤幸彦の演出といえば、先日テレビで放映されてた仲間由紀恵阿部寛コンビ「トリック 劇場版」、「劇場版2」でも見られるような(とくに「2」はひどかった)凝った編集&CGの多用が予想されたわけなんだけど、今作「自虐の詩」では、ほとんど例の「ちゃぶ台返し」以外にそれらは見当たらず、予想外にしっとりと落ち着いた演出だった。それに、ありがちな度の過ぎた細かな笑い狙いもなく(だからほとんど笑えはしなかった)。
 それから、この作品の筋(薄幸)と中谷美紀とくれば、どうしても思い出してしまうのは、中島哲也監督「嫌われ松子の一生」なわけで(言うまでもなく、こちらは凝りすぎた演出作品)、これまた観る前は話がかぶりすぎやしないかと思っていたけれど、これまた予想外にそうはならなくて、それはやっぱり前出の「しっとりと落ち着いた演出」のなせた技だったと思う。
 でも、気になったのは、スクリーンから、なぜか少しも「不幸」や「薄幸」だという雰囲気が表にも裏にも全く醸し出されてこなかったこと。少女時代もイサオ(阿部寛)と出会う前の幸江(中谷美紀)にも、その「不幸」や「薄幸」は定型化された断片的なものとしか描かれておらず、何より現在の幸江の日常がとても平坦すぎる。不幸をコミカルに描くのは良いとしても、原作にあった、これでもか、これでもかと(四コマの1話完結において)繰り返される理不尽な日常が下地としてあってこそ、最後に結晶化する、あるいは浄化されるシーンがグッとくるのであるし、幸福/不幸が自意識の織りなす状況だとすれば、幸江は「自分は不幸だ」(原作には「私は私が嫌いよ」という台詞があった気がする)と思っていなければならないし、それを観客にも知らしめておく必要がある。そこで物語上で起点となるある出来事が起こり、最後に幸江が母に宛てる手紙の「この人生を二度と幸や不幸で はかりません/なんということでしょう/人生には意味があるだけです」という一文が活きてくるように思う。その意味では、逆に、いつもの堤演出ばりに、10回も20回も不幸の象徴である「ちゃぶ台返し」シーンを用いても良かったのではないかと思った。
 良かったのは、幸江(中谷美紀)の少女時代(岡珠希)のシーン。宮城県・気仙沼ロケで撮られた風景が、とても愛おしかった。いちばん泣いたのは、そのシーン。「友だち」が「友愛」が生まれるシーン。

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自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)


自虐の詩 (下) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

自虐の詩 (下) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)


自虐の詩 上巻

自虐の詩 上巻


自虐の詩 下巻

自虐の詩 下巻


トリック -劇場版- 超完全版 [DVD]

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トリック -劇場版2- 超完全版 [DVD]

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嫌われ松子の一生 通常版 [DVD]

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